「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」の概要

近年、労働者の受けるストレスは拡大する傾向にあり、仕事に関して強い不安やストレスを感じている労働者が6割を超える状況にあります。また、精神障害等に係る労災補償状況をみると、請求件数、認定件数とも近年、増加傾向にあります。このような中で、心の健康問題が労働者、その家族、事業場及び社会に与える影響は、今日、ますます大きくなっており、事業場においてより積極的に労働者の心の健康の保持増進を図ることは非常に重要な課題となっています。

このため、平成12年8月策定の「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」が見直され、労働安全衛生法第70条の2第1項に基づく指針として、平成18年3月、新たに「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が策定されました(平成27年11月改正)。

この指針の概要は、次のようなものです。

趣旨

本指針は、労働安全衛生法第70条の2第1項の規定に基づき、同法第69条第1項の措置の適切かつ有効な実施を図るための指針として、事業場において事業者が講ずるように努めるべき労働者の心の健康の保持増進のための措置(以下「メンタルヘルスケア」という。)が適切かつ有効に実施されるよう、メンタルヘルスケアの原則的な実施方法について定めるものです。

労働安全衛生法(抜粋)
第69条 事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない。
(健康の保持増進のための指針の公表等)
第70条の2 厚生労働大臣は、第69条第1項の事業者が講ずべき健康の保持増進のための措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。

メンタルヘルスケアの基本的考え方

事業者は、自らがストレスチェック制度を含めた事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」やストレスチェック制度の実施方法等に関する規程を策定する必要があります。

また、その実施に当たってはストレスチェック制度の活用や職場環境等の改善を通じて、メンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う「二次予防」及びメンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援等を行う「三次予防」が円滑に行われるようにする必要があります。これらの取組みにおいては教育研修・情報提供を行い、「4 つのケア」を効果的に推進し、職場環境等の改善、メンタルヘルス不調への対応、休業者の職場復帰のための支援等が円滑に行われるようにする必要があります。

さらに、メンタルヘルスケアを推進するに当たっては、次の事項に留意することが重要です。

心の健康問題の特性

心の健康については、その評価には、本人から心身の状況の情報を取得する必要があり、さらに、心の健康問題の発生過程には個人差が大きいため、そのプロセスの把握が困難です。また、すべての労働者が心の問題を抱える可能性があるにもかかわらず、心の健康問題を抱える労働者に対して、健康問題以外の観点から評価が行われる傾向が強いという問題があります。

労働者の個人情報の保護への配慮

メンタルヘルスケアを進めるに当たっては、健康情報を含む労働者の個人情報の保護及び労働者の意思の尊重に留意することが重要です。心の健康に関する情報の収集及び利用に当たっての、労働者の個人情報の保護への配慮は、労働者が安心してメンタルヘルスケアに参加できること、ひいてはメンタルヘルスケアがより効果的に推進されるための条件です。

人事労務管理との関係

労働者の心の健康は、職場配置、人事異動、職場の組織等の人事労務管理と密接に関係する要因によって、より大きな影響を受けます。メンタルヘルスケアは、人事労務管理と連携しなければ、適切に進まない場合が多くあります。

家庭・個人生活等の職場以外の問題

心の健康問題は、職場のストレス要因のみならず家庭・個人生活等の職場外のストレス要因の影響を受けている場合も多くあります。また、個人の要因等も心の健康問題に影響を与え、これらは複雑に関係し、相互に影響し合う場合が多くあります。

衛生委員会等における調査審議

メンタルヘルスケアの推進に当たっては、事業者が労働者の意見を聴きつつ事業場の実態に即した取組みを行うことが必要です。「心の健康づくり計画」の策定はもとより、その実施体制の整備等の具体的な実施方法や個人情報の保護に関する規程の策定等に当たっては、衛生委員会等において十分調査審議を行うことが重要です。

さらに、ストレスチェック制度導入により、衛生委員会の付議事項(第22条)関係(第10号)として、ストレスチェック制度の実施体制及び実施方法について、調査審議を行い、ストレスチェック制度の実施に関する規程を定め、これをあらかじめ労働者に対して周知するようにすることが必要であることが示されています(平成27年5月1日基発0501第3号)。

心の健康づくり計画

メンタルヘルスケアは、中長期的視野に立って、継続的かつ計画的に行われるようにすることが重要であり、また、その推進に当たっては、事業者が労働者の意見を聞きつつ事業場の実態に則した取組みを行うことが必要です。このため衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」を策定することが必要です。

心の健康づくり計画に盛り込む事項は、次に掲げるとおりです。

  1. 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
  2. 事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
  3. 事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
  4. メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
  5. 労働者の健康情報の保護に関すること
  6. 心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
  7. その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること

なお、ストレスチェック制度は、各事業場で実施される総合的なメンタルヘルス対策の取組みの中に位置づけることが重要であるため、心の健康づくり計画において、ストレスチェック制度の位置づけを明確にすることが望ましいとされています。

4つのメンタルヘルスケアの推進

メンタルヘルスケアは、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場外資源によるケア」の「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要です。

セルフケア(労働者が自らの心の健康のために行う)

事業者は労働者に対して、次に示すセルフケアが行えるように教育研修、情報提供を行うなどの支援をすることが重要です。

また、管理監督者にとってもセルフケアは重要であり、事業者はセルフケアの対象として管理監督者も含めるものとされています。

  • ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
  • ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き
  • ストレスへの対処

ラインによるケア(職場の管理監督者が労働者に対して行う)

  • 職場環境等の把握と改善
  • 労働者からの相談対応
  • 職場復帰における支援、など

(詳細は、指針参照。)

事業場内産業保健スタッフ等によるケア

事業場内産業保健スタッフ等(産業医、衛生管理者、保健師、心の健康づくり専門スタッフ、人事労務管理スタッフ、事業場内メンタルヘルス推進担当者)は、セルフケア及びラインによるケアが効果的に実施されるよう、労働者及び管理監督者に対する支援を行うとともに、次に示す心の健康づくり計画の実施に当たり、中心的な役割を担うことになります。

  • 具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案
  • 個人の健康情報の取扱い
  • 事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口
  • 職場復帰における支援、など

事業場外資源によるケア

  • 情報提供や助言を受けるなど、サービスの活用
  • ネットワークの形成
  • 職場復帰における支援、など

(事業場外資源とは:都道府県メンタルヘルス対策支援センター、地域産業保健センター、医療機関、など)

メンタルヘルスケアの具体的進め方

上記の4つのケアが適切に実施されるよう、事業場内の関係者が相互に連携し、以下の取組みを積極的に推進することが効果的です。

メンタルヘルスケアを推進するための教育研修・情報提供

(管理監督者を含む全ての労働者が対応)

  1. 労働者への教育研修・情報提供
  2. 管理監督者への教育研修・情報提供
  3. 事業場内の産業保健スタッフ等への教育研修・情報提供

職場環境等の把握と改善

(メンタルヘルス不調の未然防止)

  1. 職場環境等の評価と問題点の把握
  2. 職場環境等の改善

メンタルヘルス不調への気付きと対応

(メンタルヘルス不調に陥る労働者の早期発見と適切な対応)

  1. 労働者による自発的な相談とセルフチェック
  2. 管理監督者、事業場内の産業保健スタッフ等による相談対応
  3. 労働者の家族による気づきや支援の促進

職場復帰における支援

  1. 職場復帰プログラム(復職の標準的な流れ)の策定
  2. 職場復帰プログラムの体制や規程の整備
  3. 職場復帰プログラムの組織的、計画的な実施
  4. 労働者の個人情報への配慮及び関係者の協力と連携