従業員に残業をさせるには、労使で「36協定」を締結した上で労働基準監督署長に届け出る必要があります。そして、残業をさせた場合は、割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金の計算は単純なものではなく間違えやすいものですので、給与計算ソフトの結果を鵜呑みにせず、従業員ごとに手で計算して確認した方がよいと考えられます。この投稿では、割増賃金の計算方法について説明します。
基本給だけで計算していませんか?
割増賃金の基礎となる賃金
次の除外賃金以外のものは、すべて割増賃金の計算の基礎として算入しなければなりません(労働基準法第37条第5項、同法施行規則第21条)。いずれも名称にとらわれずに実態で判断する必要があります。また、これは例示ではなく限定列挙です。
計算の基礎から除外できる手当等
家族手当
扶養家族の人数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当のことです。ただし、扶養家族の有無又は家族の人数に関係なく一律に支給する場合は、除外できません。
通勤手当
通勤距離又は通勤に要する実費に応じて算定される手当のことです。通勤に要した費用や通勤距離に関係なく一律に支給する場合は、除外できません。
別居手当
単身赴任手当ともいいます。
子女教育手当
住宅手当
住宅に要する費用に応じて算定される手当のことです。住宅の形態ごとに一律に支給する場合は、除外できません。
臨時に支払われた賃金
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
毎月異なる所定労働時間の実績で割増賃金額を出していませんか?
1時間あたりの賃金額(賃金単価)の計算方法
(労働基準法第37条第1項、同法施行規則第19条)
主なものを掲載しています。
月給の場合
月によって定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1か月平均所定労働時間数(※))で除した金額
→この1時間当たりの賃金額に1.25を乗じた額、が時間外労働の1時間あたりの割増賃金額です。
※月によって所定労働時間数が異なる場合
実際にはこのケースが多いものと思われます。
①(365又は366日-年間所定休日)×1日の所定労働時間数÷12か月=1か月の平均所定労働時間数
②月給額÷1か月の平均所定労働時間数=1時間当たりの賃金額
日給の場合
日によって定められた賃金については、その金額を1日の所定労働時間数(日によって所定労働時間数が異なる場合には、1週間における1日の平均所定労働時間数)で除した金額
→この1時間当たりの賃金額に1.25を乗じた額が、時間外労働の1時間あたりの割増賃金額です。
時給の場合
その1時間当たりの金額
→この金額に1.25を乗じた額が、時間外労働の1時間あたりの割増賃金額です。
切り捨てのみの端数処理をしていませんか?
割増賃金計算の端数処理
(昭和63年3月14日基発第150号)
1か月における時間外労働、休日労働、深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合
30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることができる。
1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合
(1時間当たりの賃金額及び割増賃金額のそれぞれの計算において)
50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げることができる。
1か月における時間外労働、休日労働、深夜労働の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合
50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げることができる。
遅刻、早退、欠勤等の時間の端数処理(参考)
5分の遅刻を30分の遅刻として賃金カットするというような処理は、労働の提供のなかった限度を超えるカット(25分についてのカット)について、賃金の全額払の原則に反し、違法である。
なお、このような取扱いを就業規則に定める減給の制裁として、法第91条の制限内で行う場合には、全額払の原則には反しないものである。
1か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額。)に100円未満の端数が生じた場合(参考)
50円未満の端数を切り捨て、それ以上を100円に切り上げて支払うことができる。
1か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額。)に生じた1000円未満の端数について(参考)
翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことができる。
残業ではない深夜労働にも深夜割増しを支払っていますか?
(労働基準法第37条第1項本文・第4項、労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る最低限度を定める政令、平成30年厚生労働省告示第323号「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」5条3項)
法定時間外労働(月45時間・年360時間まで)
割増率2割5分以上
法定時間外労働(月45時間を超え60時間まで)
割増率2割5分超の努力義務
法定時間外労働(月60時間超)
割増率5割以上
深夜労働(午後10時から午前5時まで)
割増率2割5分以上
※「時間外かつ深夜」の場合は5割以上、「休日かつ深夜」の場合は6割以上の割増賃金を支払わなければなりません。
法定休日労働
割増率3割5分以上
※「休日かつ深夜」の場合は6割以上の割増賃金を支払わなければなりません。
法内残業代を支払っていますか?
「法内残業」とは、所定労働時間を超える労働ではあるものの、法定時間外労働には該当しない労働のことです。
所定労働時間が7時間のところ8時間まで労働させた場合は、1時間につき労働基準法37条の割増賃金の支払いは不要ですが、通常賃金(このケースでは1時間分)を支払う必要があります。労働協約、就業規則等によって、その1時間に対し別に定められた賃金額がある場合には、その別に定められた賃金額でも差し支えありません(昭和23年11月4日基発第1592号)。
賃金計算が複雑になるのを避けるために、就業規則によって法内残業の部分を「時間外労働に含める」、「休憩時間とする」ことなども可能です。