日常業務を行う中で使用者・労働者の両者において、一番身近で一見理解しやすそうな「労働時間」に関することですが、実は、労働法の中でもとりわけ難解であり実務的にも専門性の高い分野となっています。そんな労働時間制度について、法令の規定から基本中の基本の部分を抜き出して整理してみました。
使用者としては、労務管理のコンプライアンスの面において最も押さえておかなければならない事項の一つですが、自社の労働時間運営について点検をするために改めて理解・確認していただき、詳細な部分や不明点、手続方法は、是非、私たち社会保険労務士に相談していただきたいと考えています。
労働基準法の規定
法定労働時間
- 使用者は、労働者に休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはいけません(労働基準法第32条第1項)。
- 各日については、労働者に休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはいけません(同条第2項)。
- 所定労働時間(休憩を除く。)を8時間として、土日など完全週休2日制(1日8時間×週5日=週40時間)と規定・運用すれば、上記の労働時間を上限ギリギリで守ることができます。
- 特例として、商業、映画・演劇業(映画制作事業を除く。)、保健衛生業、接客娯楽業の事業であって規模10人未満のもの(以下「特例措置対象事業場」といいます。)の法定労働時間は、1週間について44時間、1日について8時間となります(同法第40条第1項、同法施行規則第25条の2第1項)。
変形労働時間制
1か月単位の変形労働時間制
1か月以内の期間を平均し、1週間当たりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内となるように労働日及び労働日ごとの労働時間を設定することにより、労働時間が特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えて労働させることができる制度です(労働基準法第32条の2)。
1年単位の変形労働時間制
1か月を越え1年以内の一定の期間を平均し、1週間当たりの労働時間が40時間以下の範囲内にした場合に、特定の日や週について1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です(労働基準法第32条の4)。
1週間単位の非定型的変形労働時間制
規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業において、1週間単位で毎日の労働時間を弾力的に定めることができる制度です(労働基準法第32条の5)。この制度を採用している事業場は、ほとんどないものと思われます。
フレックスタイム制
一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が⽇々の始業・終業時刻、労働時間を⾃ら決めることにより、⽣活と業務との調和を図りながら効率的に働くことができる制度です(労働基準法第32条の3)。
休憩
使用者は、労働者に労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければなりません(労働基準法第34条第1項)。
法定休日
使用者は、労働者に毎週少くとも1回の休日を与えなければなりません(労働基準法第35条第1項)。4週間を通じ4日以上の休日を与えることで、これに代えることもできます(同条第2項)
休日の振替/代休
こちら を参照ください。
時間外及び休日の労働
- 使用者と労働者の過半数で組織する労働組合等との書面による協定(いわゆる「36協定」)の締結と労働基準監督署長への届出をすることによって、使用者は、その協定で定めた範囲で時間外労働(法定労働時間を超えた労働をいう。以下同じ。)や休日労働(法定休日の労働をいう。以下同じ。)をさせることができます(労働基準法第36条第1項)。
- 使用者は、時間外労働又は深夜労働(午後10時から午前5時までの労働をいう。)をさせた場合は、通常の賃金の2割5分以上の割増賃金(※1)、休日労働の場合は通常の賃金の3割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません(同法第37条第1項本文・第4項、労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る最低限度を定める政令)(※2)。
※1 1か月60時間を超える時間外労働については、通常の賃金の5割以上(同項ただし書)。中小企業は令和5年4月1日施行。
※2 「時間外かつ深夜」の場合は5割以上、「休日かつ深夜」の場合は6割以上の割増賃金を支払わなければなりません。
時間外労働の上限
- 時間外労働(休日労働を含まない。)の上限は、原則として月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできません(労働基準法第36条第4項)。
- 臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、
① 時間外労働が年720時間以内
② 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
③ 時間外労働と休⽇労働の合計について「2か⽉平均」「3か⽉平均」「4か⽉平均」「5か⽉平均」「6か⽉平均」が全て1⽉当たり80時間以内
④ 原則である月45時間を超えることができるのは年6か月まで
とする必要があります(同条第5項・第6項)。 - 建設事業、自動車運転の業務、医師については、令和6年3月31日までは上限規制の適用が猶予されます。また、新技術・新商品等の研究開発業務については、上限規制の適用が除外されています。
- 限度時間(1か月45時間)を超える時間外労働については、通常の賃金の2割5分を超える割増賃⾦率とするように努めなければなりません(平成30年厚生労働省告示第323号「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」第5条第3項)。
みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制
労働者が業務の全部又は一部を事業場外で従事し、使用者の指揮監督が及ばないために、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に、使用者のその労働時間に係る算定義務を免除し、その事業場外労働については「特定の時間」を労働したとみなすことのできる制度です(労働基準法第38条の2)。
専門業務型裁量労働制
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働省告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です(労働基準法第38条の3)。
企画業務型裁量労働制
対象業務の存在する事業場において、企画、立案、調査及び分析の対象業務を行なう事務系労働者について、業務の遂行手段や時間配分を自らの裁量で決定し、使用者が具体的な指示をしない制度です(労働基準法第38条の4)。
労働時間等に関する規定の適用除外
次の労働者には、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用されません(労働基準法第41条)。ただし、この「労働時間、休憩及び休日に関する規定」には深夜業に関する規定が含まれていませんので、深夜に労働をさせた場合は、割増賃金を支払わなければなりません。
- 農業、畜産業、養蚕業、水産業に従事している者
- 事業の種類にかかわらず監督又は管理の地位にある者(いわゆる「管理監督者」)
- 事業の種類にかかわらず機密の事務を取り扱う者
- 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が労働基準監督署長の許可を受けたもの
労働時間の適正な把握
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
労働基準法において労働時間、休日、深夜業等について規定されており、使用者には、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務がありますが、ガイドラインによって、その労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置が具体的に明らかにされています。
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)
対象事業場
対象となる事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定(労働基準法第4章)が適用されるすべての事業場です。
対象労働者
対象となる労働者は、労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除くすべての労働者です
本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要がありますので、使用者は過重な長時間労働を行わせないようにするなど、適正な労働時間管理を行う責務があります。
労働時間とは
使用者の明示的・黙示的な指示により労働者が業務を行う時間は労働時間に当たります。
たとえば、次のような時間は労働時間に該当します。
- 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)、業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
- 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
- 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
始業・終業時刻の確認及び記録・・・使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認し、これを記録しなければなりません。
始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法・・・使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法による必要があります。
ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。
やむを得ず自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
自己申告制により行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずる必要があります。
- 自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
- 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
- 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
- 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。
- 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。
労働安全衛生法の規定による「労働時間の状況の把握」義務
- 使用者は、長時間労働者に対する医師による面接指導を実施するため、客観的な方法により労働者の労働時間の状況を把握しなければなりません(労働安全衛生法第66条の8の3)。
- 客観的な方法とは、タイムカードによる記録、パソコンの使用時間(ログインからログアウトまで)の記録等です(労働安全衛生規則第52条の7の3第1項)。
- 事業者は、把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存しなければなりません(同条第2項)。
- 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では対象外になっていた、労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を含み、高度プロフェッショナル制度により労働する労働者を除くすべての労働者が対象となります(同法第66条の8の3、労働基準法第41条の2第1項)。
労働基準法上の労働時間の把握に関する規定(参考)
労働基準法(抜粋)
(賃金台帳)
第108条 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。労働基準法施行規則(抜粋)
第54条 使用者は、法第108条の規定によつて、次に掲げる事項を労働者各人別に賃金台帳に記入しなければならない。
二 性別
三 賃金計算期間
四 労働日数
五 労働時間数
六 法第33条若しくは法第36条第1項の規定によつて労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合又は午後10時から午前5時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時)までの間に労働させた場合には、その延長時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数
七 基本給、手当その他賃金の種類毎にその額
八 法第24条第1項の規定によつて賃金の一部を控除した場合には、その額
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)
旅館業における休日の取扱いについて
(昭和57年6月30日基発第446号)
旅館業においても労働基準法第35条の休日は、暦日によって与えなければならないところ、労働者の勤務が、客のチェックインからチェックアウトまでの2暦日にまたがる時間帯を基準に編成され、休日も同様に事実上の2暦日にまたがる勤務を免除するという形で与えるられることもやむ得ないと認められる場合があります。
そこで、旅館業について、当面、下記1.に掲げる労働者に限って、下記2.に掲げる要件を満たす休息時間(以下「2暦日にまたがる休日」という。)が与えられている場合には、同条違反として取り扱わないものとされています。
- フロント係、調理係、仲番及び客室係
- 2暦日にまたがる休日は、次のすべての要件を満たすものでなければならない。
① 正午から翌日の正午までの24時間を含む継続30時間の休息時間が確保されていること。ただし、この休息時間は、当分の間に限り、正午から翌日の正午まで24時間を含む継続
27時間以上であっても差し支えないものとする。
② 休日を2暦日にまたがる休日という形で与えることがある旨及びその時間帯があらかじめ労働者に明示されていること。